SuccessAbility Lab.
筑波大学人間系 佐々木銀河 研究室

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研究室紹介 About

SuccessAbility Lab.(サクセサビリティラボ)とは?

SuccessAbility(サクセサビリティ)とは、障害に関する下記の3種の言葉を組み合わせた造語です。
私たちの研究室では、この「SuccessAbility(サクセサビリティ)」と呼ばれる状態に関心をもっています。

Dis-ability(ディス-アビリティ)

社会モデルとしての障害

障害者と呼ばれるとき「障害」が個人にあるものと考えがちになりますが、私たちはそうではないと考えています。

例えば、発達障害の中でも自閉スペクトラム症のある人はコミュニケーションが生まれつき苦手な人ですが、コミュニケーションの苦手さが「障害」になるかどうかは別だと私たちは考えています。コミュニケーションは人と人との関わりの中で起きるもので、コミュニケーションの苦手さが「障害」になるということは、その人と周囲の環境との間に何らかのミスマッチがあると私たちは考えています。

逆にいえば、本人と周りの人を含めた人的・物理的環境の関わり(相互作用)が変わっていけば、つまり、社会が変われば「障害」があると呼ばれる状態も変わっていくという考え方で私たちは「障害」を捉えています

Accessibility(アクセシビリティ)

機会や情報・資源に対する対象者の利用のしやすさ

社会的に障害のある人は、様々な場面で機会や情報・資源への利用がしづらい、またはできない状況になることがあります。社会が変われば、と書きましたが、実際には社会という大きな概念ではなく、障害があると呼ばれる一つ一つの状況で何が起きているのかを丁寧に見ていくことが大切だと考えています。

例えば、重度の知的障害のある人は、会話などの音声でのコミュニケーションや困難なことがあります。その人が音声でのコミュニケーションが多数派となる状況にさらされると、それが「障害」になるのだと考えています。音声以外のコミュニケーション手段の利用や手段を利用するために必要な教育機会の保障などがなければ、その人はずっと「障害」のある状況で過ごさなくてはいけないことになります。

「障害」のある状況にさらされている人が、生活していくために必要不可欠な機会や情報・資源に障害のない人と同様に公平にアクセスできる「アクセシビリティ」を大切にすべきであると私たちは考えています

Success(サクセス)

対象者の目標達成や自己実現

社会的に「障害」のある人にとって、機会や情報・資源にアクセスできる「アクセシビリティ」は必要不可欠です。ですが、機会や情報・資源が利用できればそれで本当に十分であるのか、私たちは気にするようにしています。

例えば、障害のある大学生に対して、「アクセシビリティ」を保障するために必要な環境側の措置を講じることがあります。それは公平さを大切とするため、必要最低限の措置であることが少なくありません。しかし、大学生という存在は、大学の中で一人一人がそれぞれ異なる目標をもっていたり、ひょっとしたら、大学に入って自分の目標を見失っているような学生もいるでしょう。

障害のある方が公平にアクセスできることを前提に、一人一人が将来に向けて、どんな目標をもって生きていくか、その目標がどのような方法で達成して生き生きと過ごすことができるのかを探求したいと考えています。

一人一人の自己実現、つまり、「サクセス」をもたらす条件や方法は何であるかに私たちは関心を持っています。

SuccessAbility Lab.のビジョン

SuccessAbility Lab.では、社会的に障害のある方の公平なアクセスを保障し、かつ、自己実現(サクセス)をもたらす条件・方法を明らかにすることで、障害のない社会の構築を目指しています。

私たちは、SuccessAbility Lab.のビジョンを「山登り」にたとえて考えています。

山に登る一人一人の多様性

山には老若男女、さまざまな人が訪れます。特に工夫をしなくても山の中を走り回れるような強靭な体力をお持ちの人もいれば、何らかの事情で歩くスピードがゆっくりとしていて、積荷を軽くしたり、ストックなどの補助器具を活用したり、仲間と一緒に登ることで山に登れるような人もいます。

山の登り方(ルート)の多様性

山の登り方(ルート)も様々あり、一人一人の好みや考えに合わせて登り方が選ばれます。一般的と呼ばれる登山道を歩かれる人もいれば、なぜそんな所に行くのか一般的には疑問のあるような厳しい岩山を登りたがる人もいます。人によっては、ロープウェイなどのテクノロジーを利用して登る人もいるでしょう。

山に登る理由や目標(ゴール)の多様性

ひょっとしたら、全員の目標(ゴール)は山頂に到達することではないかもしれません。山頂というのは目に見えて分かりやすいゴールですが、ある人は登山道の途中の景色や草花を眺めて楽しむことがゴールであったり、登った後の温泉や食事を楽しむなど山以外の部分がゴールだったりもするでしょう。

多様な登山者がそれぞれのゴールに至るまでのアクセスを保障するガイド

障害のある人を支援するというときに、ついつい「一般」とか「定型」と呼ばれるルートやゴールを考えがちです。

障害のある状況にさらされている人に対して、その人が目指したいゴールは何かを考えながら、その人にとって登りやすいコンディションを考えて、ゴールに至るまでのルートのアクセスを保障するような「ガイド」が障害支援において大切だと考えています

このWEBサイトのコンセプトが登山用品店風であることにも表れています。 (まあ、半分以上は教員の好みですが)

ビジョンを達成するために取り組んでいること

SuccessAbility Lab.のメンバー

SuccessAbility Lab.には、様々な個性豊かなメンバーがいて、それぞれの関心をベースにして研究しています。
教員を含めて、メンバーがどのようなことに関心を持っているかは「メンバー」ページをご覧ください。

SuccessAbility Lab.の教員ができること

理論的バックグラウンド

研究室の教員(佐々木銀河)は、人(個体)と環境との相互作用から、さまざまな人の行動の要因を分析する学問である「行動分析学(Behavior Analysis)」を理論的な基盤としています。特に、行動に関する法則性をさまざまな場面の問題解決などに応用する「応用行動分析(Applied Behavior Analysis)」をバックグラウンドとしています。

行動分析学に基づき、障害があると呼ばれる状況が起きる原因を個人要因のみに帰属せずに、その人の自己実現につながるような標的行動がどのような環境条件を整えれば生起するのかに関心をもって研究しています。

本研究室(SuccessAbility Lab.)のほかに「応用行動分析学研究室」とも連携して、メンバーが応用行動分析や関連する研究手法について学びたい場合/学ぶ必要性のある場合に、より高度に学習できる機会を提供しています。

「応用行動分析学研究室」では、自閉スペクトラム症の幼児児童生徒への教育相談があり、学生がお子さんへの臨床指導の経験を積んだり、事例研究を行うことができます。

主に用いる研究手法

研究手法としては、主に下記の方法を用いることが多くあります。研究の問いに応じて研究手法を選択するため、研究の問いに適した別の研究手法があれば使用することがありますし、研究に取り組むメンバーが得意な研究手法があればそちらを使用することもあります。量的な情報を取り扱うアプローチが多いですが、質的な情報も重視しながら研究を進めています。

●調査研究(社会調査法、尺度開発)
●実験、介入研究(シングルケースデザイン、グループデザイン)

主に研究対象としている領域

研究対象としている障害の分類は「発達障害(自閉スペクトラム症など)」や「知的障害」が中心になりますが、研究の問いによっては障害の分類にこだわらず、研究を進めています。例えば、障害のある方のICT活用などは障害の分類にかかわらず進めている研究の一例になります。

また、研究対象としている人の年代としては乳幼児から高校生、大学生、就労段階まで様々ですが、研究フィールドとの関係で教員自身は障害のある大学生や自閉スペクトラム症の幼児・児童を対象とすることが多いです。その他、メンバーが関心をもって既に関わっている研究フィールドがあれば、その領域で研究を進めることがあります。

SuccessAbility Lab.が取り組んでいる研究

現在、SuccessAbility Lab.で進めている研究プロジェクトに関しては、「プロジェクト」ページをご覧ください。

SuccessAbility Lab.では、研究成果の展開についても大切にしています。各研究の成果を国内外の学会や学術雑誌で発表することを重視しています。日本語はもちろん、英語での学会発表・論文投稿も積極的にサポートしています。

また、学術界のみならず、研究成果を社会に還元するために、WEBサイトやSNS、プレスリリース等を活用して研究成果を正確かつわかりやすく発信することや、研究活動の中で生み出されたプログラムやツールなどを利用できるようにする社会実装活動も積極的に進めています。

SuccessAbility Lab.で生み出された研究成果に関しては、「研究成果」ページをご覧ください。

研究室の環境・リソース

メンバーに対する研究教育のスタイル

SuccessAbility Lab.に所属するメンバーの研究教育は、基本的に個別指導のスタイルで行っています。定期的に教員とミーティングを行い、関連研究の進捗確認や今後の方向性を相談しています。基本はオンラインミーティングを活用することが多いため、遠隔地のメンバーへの研究教育も行っています。細かい内容や資料の共有はストレージやチャットを活用して、内容や状況に応じて求められるコミュニケーション手段を使用します。

研究テーマを決める際には学生の関心のあるトピックやキーワードを踏まえながら、研究フィールドの実効性を考慮し、実施する価値のありそうな研究テーマを個別に相談しながら決めるようにしています。学位論文に関してはメンバーから研究テーマが提案されることもあれば、教員からいくつかのテーマを提案して選択してもらうこともあります。

「短い時間でもコンスタントに」「進捗があってもなくても、その時にできることを考える」「あきらめなければ、なんとかなる」をモットーにしています。

研究会(ゼミ)の目的と方法

SuccessAbility Lab.ではメンバーに対する個別指導による研究教育のほか、学類生から大学院生、社会人などが参加する研究会(ゼミ)を【毎週水曜日18:15〜19:30】にハイブリッド形式(対面またはMicrosoft Teams)で開催しています。オンラインですので、場所はどこからでも参加することができます。

筑波大学人間学群の学生は「人間フィールドワークⅠ・Ⅱ・Ⅲ」の一環で単位を取得しながら、研究会に参加することが可能です。他の所属の学生・教職員についても個別に相談して検討いたします。 筑波大学以外の方でも個別に相談して検討いたします(状況によってお断りすることもあります)。

「学位論文の進捗報告」のほか、低学年の学生や社会人の方も含めた関心のある「論文レビュー」などを通じて、参加者の関心のあるテーマでディスカッションを行います。教員もコメントしますが、主には参加したメンバー同士のプレゼンテーションや質疑応答を通じて学び合うことを目的としています。

可能な限り、SuccessAbility Lab.の学生メンバー以外の方の参加も受け入れて、研究室を閉ざされたものにせず、社会との接点の1つになればと考えています。

メンバー同士の共同研究(Joint Research in Lab.)

「Joint Research in Lab.」(ラボ内共同研究)として、学位論文とは別に、1つの研究課題を希望するメンバーが役割分担しながら共同して進めていくプロジェクトも行っています。学類1年生から博士課程の大学院生あるいは社会人まで、研究会(ゼミ)に参加している人は基本的に「Joint Research in Lab.」にも参加できるようにしています。それぞれの参加者でできることが異なるため、文献調査やデータ入力・分析、論文執筆など、それぞれの人の得意なこと・できることを活かしながら進めるようにしています。参加のペースもそれぞれの状況に合わせるようにしています。

学生メンバーにとって学位論文に関する研究は最も重要ですが、他者と共同しながら研究を進めることを体験する機会として設けています。年代や研究経験、関心も異なる人たちがチームとなって「研究とは何か」を体験できるようにしています

「Joint Research in Lab.」の成果も学位論文等と同様に学会発表や論文投稿、研究成果の展開を進めていきます。

メンバーの研究推進に関するサポート環境

各メンバーが研究を進めるために必要な文献や資料の調達などのサポートも行います。また、各メンバーが進める研究課題と予算とのマッチングができれば、研究実施や発表等に関する必要経費のサポートも個別に検討します(ラボの予算がないときは残念ですが。。。)

また、学生メンバーの学年に応じて、それぞれの段階でどのようなことが求められているのか、研究を進めるために何に気をつければ良いかなど、研究教育のための内部資料として「SuccessAbility Lab.の歩き方」を随時、整備して研究教育のノウハウを蓄積・共有するようにしています。

SuccessAbility Lab.にご関心のある方へ

私たちは、SuccessAbility Lab.のビジョンに向けて、さまざまなメンバーと一緒に仕事をしていきたいと考えています。

SuccessAbility Lab.にご関心のある方は「お問い合わせ」ページより、お気軽にご連絡ください。

(研究室訪問、出願、研究員受入、共同研究、各種依頼など)

※SuccessAbility Lab.は2020年度に立ち上げた研究室であり、私たちも日々試行錯誤しながら、取り組んでいます。色々な方からのご意見をいただきながら目指すことも変わっていくと思いますので、現在地だと思っていただければ幸いです。予告なく変えたりします。